私は、中学1年生の秋から中学卒業まで、「成長ホルモン分泌不全性低身長症」により、成長ホルモン注射による治療を受けていました。
治療を始める際に、“中学生から“という遅めのスタートということと、親目線での情報ばかりで本人目線での情報が少なく不安になったことを思い出し、ここに記録しておきたいと思います。ただ、これは私の個人的なケースですし、治療をしていたのも数年前(2012年秋~2015年春)のことですので、あくまでも体験談として読んでいただけると幸いです。
私の成長記録
生まれたとき
普通の身長体重で、目立った出産時トラブルもなかったようです(母子手帳参照)
幼稚園
同じ年頃の子の中でも、大きめなくらいでした。
小学生
身長の伸びが悪く、どんどん友達に身長を抜かされていきました。気づいたら、クラスで一番小さくなっていました。小学校6年間で伸びた身長は20cm、増えた体重は10kgです。(体育着を6年間同じものを着用していました)
中学生
入学式で入場してくる新入生の中で明らかに小さい私+入学後の健康診断で「栄養失調」で経過観察になったこと(低身長と低体重でそう判断されたようです)を機に、小児科を受診。紹介状をもらって、市立病院の小児内分泌外来受診と相成りました。
実際の身長体重としては、
12歳8か月時点で、137.6cm 27.5kgでした。これは、-2.6 SDで、医学的低身長に当たる数値です。具体的なエピソードで言うと、中学入学時に購入した体育着がSSSサイズで特注品でした。
治療の流れ
- 内分泌科の初診で行われたこと
1.身長体重の測定
2.血液検査と尿検査
3.(骨のレントゲン)←これは、初診じゃなかったかもしれません
- 二回目の受診で行われたこと
1.血液検査の結果→IGF-1が低く、成長ホルモンが出ていない可能性が高いこと
2.骨のレントゲンの結果→骨年齢は10.5歳。実年齢より2歳以上遅れていること
これらより、成長ホルモン分泌不全性低身長症の可能性が高いことを説明され、より詳しい検査をするために、夏休みを使って検査入院をすることになりました。
- 三泊四日の検査入院
入院初日は、脳のMRIを撮りました。これは、脳に器質的な原因がないかを調べるための検査です。2日目~4日目は、朝食は抜きで、数時間(確か、3時間程度)かかる負荷試験を行いました。負荷試験は、初日に腕に留置された状態の点滴のチューブから薬剤を入れ、それに対する体の反応を見るものです。調べたところ、飲み薬の場合もあるようですが、私の場合は三種類とも点滴からでした。検査中は、同じ針から30分毎くらいに看護師さんが採血をしたり、指先で血糖値を測ったりします。この検査を行っている間は、ベッドから起き上がってはいけない、飲食禁止、などの条件があります。中学生の私には、少しだるい様な気がする以外ただただ暇なだけでなんてことのないものでしたが、じっとするのが嫌いな小さな子供には辛いかもしれません。私は、持ち込んだ漫画を読んで時間をつぶしました。
検査が終わった後は、することもなく、自由時間でした。おやつを食べ(病院から病院食の一環としておやつが出るとは驚きでした。小児科だからなのでしょうか?)、隣のベッドに入院していた女の子とおしゃべりを楽しみ、夏休みの宿題をやっつけ、と、初めての入院生活を味わいました。普段12時就寝の私も、慣れない検査に気が張っていたのか、小児科の消灯時間9時には眠りにつくことができました
- 退院後の受診
この時、入院時に行った検査の結果を説明されました。
1.MRIの結果→脳に器質的な原因は見られなかったこと。
2.染色体検査→ターナー症候群ではないこと
3.負荷試験の結果→3種類中1種類でとても低い値が、もう1種類は低い値が出たこと。残りの1種類は、基準値(6ng/ml)をわずかに上回る数値だったこと。
検査の結果より、小児慢性特定疾病の医療費助成からは外れるが健康保険が適用されることと、未治療だと身長が145cmに届かない可能性が高いことから成長ホルモン注射を勧められました。
- 治療を決意してから
前回の受診後、両親と話し合い、成長ホルモンの注射による治療を始めることにしました。
最初に使う時は、看護師さん(イーライリリーの社員さんもいらっしゃった気がします)から注射の仕方の説明を受けました。その後は、月に一回の受診(身長体重の測定、普通の診察、足りなくなった物品の補充、受診後に薬局で注射の受け取りなど)、三か月に一回の尿検査と血液検査、半年に一回の骨のレントゲンを治療終了まで繰り返しました。中3の3月、身長が十分に伸びたことと、まる子医療証が切れることから、まだ骨端線は閉じていませんでしたが、治療を終了することとなりました。初経は15歳6か月でした。血液検査のたびに女性ホルモンの値もずっと測っていて、先生からは「数値が上がってきたからそろそろ来るはず」と言われ続けてやっと来た感じでした。始まりはとても遅かったですが、その後は問題なく来ています。
私は、中学生から始めたので最初から自己注射でした。注射部位は太ももがお気に入りで、ほぼ毎回太ももに打っていました。
使っていた器具
注射本体…ヒューマトロープ12mg(イーライリリー)/注射針…ナノパスニードル34G(テルモ)/アルコールの清浄綿
治療の頻度
毎日でした。サボったことはほとんどなく、修学旅行中くらいです(その前後に多少増量して打つなどの対策を医師の指示のもと行いました)。毎日コツコツ続けたことは、治療の効果を最大限引き出すのに役立ったのかな、と振り返って思います。
治療の痛みや面倒くささなど
治療を始める直前に発売されたナノパスニードルのおかげか、注射に痛みを感じることはほとんどありませんでした。あの針には、本当に感謝しています。針を刺す恐怖については、慣れてしまえばなんてことないです。小さい子用なのか、針隠しカバーもついていました。面倒くささは多少感じることもありましたが、寝る前のルーティンに組み込んでしまえば(冷蔵庫から出す→歯磨き→注射→就寝など)、そこまで苦痛を感じることは無かったです。(注射液を作る作業が若干面倒ではあった)それよりも、毎月のようにどんどん伸びる身長が嬉しかったです。
治療中の体調など
体がエネルギーを欲するのか、本当によく食べていました。朝食、午前の間食、昼食、午後の間食、部活後の間食、夕食、と一番食べていた時期は一日6食のこともありました(ただ、一回にあまり食べられない体質なので、一回一回の量はそこまで多くありません)そして、よく寝ていました。とにかく元気でした。
治療中の金銭面
成長ホルモン注射は大変高価で、保険がきいて3割負担でも、高額の治療費がかかります。ただ、私の住んでいた自治体は、子どもの医療費助成制度があったため、注射代や物品代も含めて、通院ごとに200円の負担で済みました。この制度が無かったら、治療をするのは難しかったと思うので、とても感謝しています。また、治療に直接かかる費用ではないのですが、身長の伸びに伴って足が大きくなった(20.5cm→24.5cm)ので、上履きを高頻度で買い替えていました。また、体育着も買いなおすことになり、制服もお直しに複数回出しました。
治療を終えて思うこと
私の治療期間は実質2年半程度。10年以上にわたる治療になることも珍しくないこの病気では、大変短い部類でした。そして、私は遅いスタートにも関わらず、治療の効果が大変よく、2年半で20cm伸ばすことができ、現在の身長は日本女性の平均とほぼ変わりません。(成長ホルモンを打ったからといって、必ずしも身長が伸びるとは限らないそうです)身長に特にこだわりのなかった私ですが、大きくなってみると、電車のつり革につかまることができたり、子供服ではなく女性服から服を選べたり、同級生たちと同じ目線で話すことができたり、小さいけれど便利なことがたくさんあります。治療を受けたことをどう思うのかは、人それぞれなのでしょうが、私は治療が受けられてよかったと思っていますし、治療できたことに感謝しています。
最後になりますが、治療に関わってくださったさまざまな方に感謝申し上げます。
追記(治療終了後の影響)
私の場合、治療終了後疲れやすくなったり、食べられなくなったりと体調不良を起こす機会が増えて(不定愁訴的な体調不良)、血液検査を受けたことがあります。そこでこの病気だったことも伝えて、医師にIGF-1も測ってもらいました。出た結果としては、「確かに値は低いけど、成人の治療をできるほど低くはない」というもので、現在に至るまで無治療で過ごしています。あとは、治療中の血液検査では指摘されなかったのに、高コレステロールを指摘されるようになりました。医師にはメンタル面での治療を勧められ、現在メンタルの治療をして2年以上になります。治療して、メンタル的なものは落ち着いたものの、疲れやすさは変わらずに残っています。疲れやすさ、というのは数値で見えるものではないため難しいのですが、同年代の生活スタイル(朝から大学に通学→夕方からはバイトなりサークルなりで帰宅するのは夜23時を回ってから)みたいなのは、私にはできません。
また、私は治療終了後に歯の矯正をしています。通常、矯正治療は自由診療ですが、この病気の既往があると保険適用になることがあります(指定医療機関で行った場合のみ)。確実になるかどうかは分からないのですが、私は通っていた小児内分泌科の先生に書いてもらった診断書を歯科に提出したところ、保険適用になりました。矯正は本当に高額な治療なので、感謝しています(ただ、保険適用で治療してても結構な費用が掛かります。これは、私が子どもではなく、歯並びが酷いせいもあるかもしれません…)
※成長ホルモン分泌不全性低身長症は、「厚生労働大臣が定めた疾患」の44番に該当します。(2022.2.5現在)